Song Stories

アメリカ

世界のプロテスト・ソング「ウィ・シャル・オーバーカム」

大きなホールの一面に色鮮やかな壁画が描かれている。独裁者に立ち向かう革命軍の兵士と民衆が、ともに赤い十字架を背負って前進する絵だ。中米ニカラグアが内戦をしていた1980年代半ば。首都マナグアの下町にあるカトリック教会で、これから日曜のミサが始まる。

ジーンズにサンダル履きで登場した「聖歌隊」がギターを手に「わが国土は人民のもの」と歌う。神父は「キリストは抑圧に抗して闘った。我々の闘いはすべての人民に自由をもたらすための闘いだ」と、バチカンの本部が聞いたら肝をつぶすような説教をする。参列者に米国人がいるのを知ると神父は合唱を呼びかけた。彼の指揮で響いたのは「ウィ・シャル・オーバーカム」の歌声だ。

当時のニカラグアは、民族の自立と社会正義を求めたサンディニスタ革命が成功し、米国が送り込んだ右派ゲリラと戦っていた。巨大な米国の力に対して、人々は歌で戦っていた。

この歌は米国で生まれた。1946年、東部のタバコ労働者が待遇改善を求めてストをしたさい、日々のピケの締めくくりに黒人の女性労組員の提唱で古いゴスペル「ウィ・ウィル・オーバーカム」を歌った。

やがてそれがフォーク歌手ピート・シーガーに伝わり、彼は「ウィ・シャル・オーバーカム」と変えた。「なぜならシャルの方が口を大きく開けて歌うからだ」と書いている。

60年代には黒人の人種差別撤廃を求める公民権運動の中で、プロテスト・ソングとして広まった。白人専用のバスやレストランに、排除されていた黒人が座り込んだ。彼らが、そして共鳴する人々が、この歌で困難を乗り越えて歴史を変える意志を表明した。生きる権利を主張した。ベトナム反戦運動でも歌われた。

米国だけではない。日本でも60年代末のベトナム反戦や大学の自治、反公害など市民運動の高揚の中で、国会を取り巻く大デモが起きた。両手を広げるフランスデモをしながら人々が歌ったのが、この歌だ。渦中にいた私自身が体験している。

「アイ・ウィル」なら、一人の意志だ。それが「ウィ・ウィル」で集団の意志に拡大する。だが、「ウィ・シャル」となると、天の意志になる。「そうなるべきだ、必ずそうなる」という意味合いが言葉に含まれる。


自分の行動は単なるわがままではない。人類の壮大な夢を実現するためなのだ。そう確信すれば勇気がわいてくる。歴史を変える力となる。



Pete Seeger


Joan Baez


We shall overcome
Pete Seeger

We shall overcome
We shall overcome
We shall overcome, some day

Oh, deep in my heart
I do believe
We shall overcome, some day

We'll walk hand in hand
We'll walk hand in hand
We'll walk hand in hand, some day

Oh, deep in my heart
I do believe
We shall overcome, some day

We shall live in peace
We shall live in peace
We shall live in peace, some day

Oh, deep in my heart
I do believe
We shall overcome, some day

We are not afraid
We are not afraid
We are not afraid, TODAY

Oh, deep in my heart
I do believe
We shall overcome, some day

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