コスタリカ
[1]軍隊なしで、なぜ国民が安心していられるのか?
2015.11.6
同じ平和憲法を持っていても、コスタリカと日本はずいぶん違います。本当に軍隊をなくしたばかりか、平和を輸出しています。本当の積極的平和主義を展開して憲法を活かしているコスタリカの現状をお伝えしましょう。
コスタリカの首都サンホセの目抜き通りを歩いていたら女性の警官が2人、街角に立っていました。「こんにちは」とあいさつしたあと、いきなり質問しました。「平和憲法を持っていても侵略されたらどうするんですか?」
彼女は言いました。「軍隊を持ってしまうと、どうしても武力を使いたがります。それを避けるためにも軍隊を持たないことは素晴らしいことです。もし侵略されたらまず私たち警察隊が対応しますが、政治家が平和的に解決してくれると信じています」
なぜ平和憲法を制定したのか?
コスタリカは日本に次いで世界で2番目に平和憲法を持ちました。日本と違うのは、完全に自主的に制定したこと、条文どおり軍隊を廃止したこと、平和を広めていることの3点です。侵略されたら大統領が国民に呼びかけて志願兵を募ることにしていますが、66年間、必要ありませんでした。他国が侵略できない国づくりをしたからです。それは「平和ブランド」の構築です。
なぜ、自主的に軍隊をなくしたのでしょうか。
憲法制定の前の年に、選挙の不正をめぐって内戦が起きました。殺しあいはもう嫌だと考えました。もう一つは国家予算に占める軍事費の多さです。当時は予算の3割が軍事費でした。貧しい途上国なので国費を社会の発展に役立つ事に使おうと考えました。
では、何にカネを使えば社会は発展するのでしょうか。国会で話し合った結論が教育です。「自分で考え自分で行動する自立した国民」を育んでこそ社会は発展すると考え、軍事費をそっくりそのまま教育費にしました。「兵士の数だけ教師をつくろう」というスローガンを掲げて。
軍隊なしで、なぜ平和を保てているのか?
では、軍隊なくしてどうやって平和を保ったのでしょうか。
それは本当の「積極的平和主義」を外交政策としたことによってです。
1980年、カラソ大統領は人類に「理解と寛容、平和共存」の精神を広めようと国連平和大学の創立を国連に提案しました。首都郊外の大学で今、日本を含む世界の学生が「平和になるにはどうしたらいいか」を学んでいます。
1980年代、コスタリカの隣のニカラグアなど3つの国が内戦をしていました。米国はコスタリカに圧力をかけて米国が支援するニカラグアの右派ゲリラに協力させようとしました。しかし、コスタリカのモンヘ大統領はきっぱりと断り「永世、積極的、非武装、中立」を宣言しました。超大国から自立した外交を進めることを明確にしたのです。超大国にすり寄る日本と正反対です。
次のアリアス大統領はこの3か国に対話を説き、内戦を終わらせました。その功績で1987年、ノーベル平和賞を受賞しました。彼が進めたのは「平和の輸出」です。平和憲法を持つ国は自分の国だけでなく、世界を平和にする責任があるという考えからです。日本の首相に聞かせてやりたい。
アリアス氏は国連総会で演説しました。「私は武器を持たない国から来ました。私たちの国の子どもたちは戦車を見たことがありません。武装したヘリコプターや軍艦どころか銃でさえ見たことがありません」「私は、小国ながら民主主義の歴史を誇る国から来ました。私たちの国では男の子も女の子も、弾圧というものを知りません」。
僕は彼を日本に呼んだことがあります。朝日新聞の中で左遷されたときです。1995年、彼に朝日新聞が主催したシンポジウムのパネリストになってもらいました。彼が壇上で語ったのは「私たちにとって最も良い防衛手段は、防衛手段を持たないことだ」という言葉です。名言ではありませんか。
その後もコスタリカは1997年にはNGOと連携して国連に核兵器禁止モデル条約案を提出しました。2003年には世界で初めて「地雷ゼロの国」を宣言しました。世界に平和を広め、今や国際社会でコスタリカといえば「平和の国」「平和を広める国」という評価を確立しています。
いざというときの備えもしています。冒頭の警察官の言葉にもあるように、侵略されればまず警察そして国境警備隊で対応します。コスタリカの治安を守るのは警察が6500人、国境警備隊が3300人で合計9800人います。コスタリカにも現実には軍隊があると誤解している人がいますが、それは国境警備隊を軍隊と誤認しているのです。
たった9800人で国を守れるかという人もいるでしょう。しかし、コスタリカはいざとなったら全員が自国のために立ち上がります。守ろうと思うような国を創ってきたからです。
突然の質問に対する女子高生の答え
地方の町を歩いていたら、向こうから制服を着た女の子が歩いてきました。女子高校生です。いきなりでしたが、質問してみました。「あなたの国に平和憲法があるのを知ってる?」
「もちろんです」というので、重ねて聞きました。「侵略されたら、あなたは殺されるかもしれないよ。それでもいいの?」
彼女は言いました。「平和のために尽くしてきたコスタリカを攻めるような国があれば、世界が放っておきません。私はこの国の歴代の政府が世界の平和に貢献してきたことを誇りに思っています。私は自分がコスタリカ人であることを誇りに思っています」