コスタリカ
[2]警察・国境警備隊・軍隊についてのデマを正す
2019.2.2
コスタリカの平和憲法についてここに記すと、ときどき誹謗中傷が来ます。数日前に来たのがこれ。
コスタリカ信者はアフォしかおらんな。この伊藤とやらは以前に、コスタリカは軍隊を捨て、警官もピストル位しか武器を持っていないとかホザいてたな。実際には自動小銃や軽機関銃などを所有しているんだが。
事実誤認ですね。僕は「警官はピストルさえ持っていない」と言ったのです(笑)。
銃を見たことがないコスタリカの子ども
今から30年以上前の1984年、コスタリカの隣国ニカラグアは内戦をしていました。前線地帯を訪れると小学生が自動小銃を持って戦っていました。ところが、国境を越えてコスタリカに入ると、子どもはカバンを持って学校に通っていました。そして警官はピストルさえ持たず、こん棒を腰に下げているだけだったのです。
その2年後の1986年に大統領に就任し、ニカラグアなどの内戦を終わらせた功績で87年のノーベル平和賞を受賞したのがアリアス大統領です。彼は就任から約半年後に国連総会でこう演説しました。「私は武器を持たない国から来ました。私たちの子どもたちは戦車を見たことがありません。武装したヘリコプターや軍艦どころか、銃でさえ見たことがありません」
その通りでした。1949年の憲法で軍隊をなくし、警官さえ銃を持っていませんから、コスタリカの子どもたちは銃を見たことがなかったのです。
世界のどの国も3段階で武装している(安全保障の基礎知識)
一方で、国境警備隊(日本の海上保安庁に相当)は武器を持っていました。当然です。ニカラグアのゲリラがときどき越境し、彼らを追ったニカラグア政府軍がコスタリカ領内に侵入するのに対抗するためです。日本の海上保安庁だって自動小銃はもちろん機関銃も持っていますよ。
世界のどの国も3段階で武装しています。社会の治安を維持する警察、国境を守る国境警備隊、そして他国と戦うための軍隊です。日本は警察、海上保安庁、そして自衛隊という名の軍隊を持っています。これに対してコスタリカは警察と国境警備隊があるだけで、その上の軍隊はありません。
治安状態は悪化しても、困っている人を助ける姿勢は変わらない
そのコスタリカも2つの理由で1990年代から犯罪が増えてきました。いずれも国外からの脅威です。
まず、麻薬組織。南米のコロンビアで製造された麻薬が米国に運ばれるルートに当たるのが中米地域です。この地域で最大のメキシコには麻薬マフィアがはびこって社会がめちゃくちゃになりましたが、コスタリカでも国外の麻薬マフィアが暗躍するようになりました。生産国の南米と消費国の米国の間に挟まれて、メキシコもコスタリカも迷惑しているのです。
もう一つは移民、難民です。この10年ほど、隣のニカラグアから経済難民がコスタリカになだれ込んできました。内戦から復興できないニカラグアでは経済的に生きていけない人々がコスタリカに逃げてきました。同じような難民を米国や欧州は排除していますが、コスタリカはすべて受け入れています。その数が100万人近いのです。コスタリカは、それ以前は人口が400万人規模でした。今は500万人規模です。大量の難民を受け入れ、一定期間滞在したら国籍を与えています。だからこんな急激な人口増加になったのです。
難民はもともと失業者です。コスタリカに入ってすぐに仕事にありつけるわけではありません。経済の優等生だったコスタリカですが、2013年には失業率が中南米で最悪になりました。失業者の大半が難民です。生きていけない彼らは犯罪に走っています。麻薬組織の片棒を担ぐ者もいます。
この2つの理由でコスタリカに犯罪が急増し、そのため警官は今やピストルどころか自動小銃さえ持つようになりました。こうなったら「難民を追い出せ」という声が広がりそうですが、コスタリカにそんな動きはありません。難民のために自分たちの社会がおかしくなっていても、彼らを追い出そうとは思わない。
難民の半分は子どもですが、いったんコスタリカに入った以上は難民の子でも、給食費を含め全額無償の義務教育を彼らに与えています。コスタリカ人の税金でニカラグア人を助けているのです。今も「困っている人がいるなら助けよう」という姿勢を崩してはいません。偉いと思いませんか?
コスタリカを嘲笑する人間は恥を知れ
誹謗中傷する人は、30年前と今を混同していますね。ろくにコスタリカの事情を知りもせずに、コスタリカの人々の気高い努力を足蹴にするような物言いは日本人として、いや人間として恥ずかしいと思います。この機会にコスタリカを見直してほしいものです。
写真=2002年にコスタリカで撮影した市街の女性警官。このときはすでにピストルを持っていました。さらに防弾チョッキも。