コスタリカ
現地レポート2019❾ 中米の最貧国を変えたポジティブ思考
2019.2.8
日本人留学生が語ったコスタリカの教育
コスタリカ訪問団の最後の日程は、国連平和大学の再訪です。長野県から留学して国際法を学ぶ金井あやさんに、授業風景を聴きました。
先生が「あなたの国のテロ対策は?」と問いかけ、金井さんが日本の共謀罪について報告すると、他の国から来ている生徒たちが「先進国でそんなの、ありえない。デモさえ取り締まられてしまう」と驚いたそうです。人権や表現の自由を重視するコスタリカだけに、これが普通の反応です。その後は質問や問題点の指摘が飛び交ったと言います。
金井さんは毎週木曜の夜に2時間のボランティア活動をしています。対象は隣のニカラグアからコスタリカに来た経済難民でホームレスになった人です。高校生といっしょにホームレスに声をかけて必要なものをたずね、服や靴下などを近所の家庭から集めてホームレスに届けます。
高校ではこれが授業の必須科目で、ボランティアを一定時間やらなければ卒業できないのだとか。「何かをすれば社会を変えられるという気持ちがコスタリカ人には強い」と金井さん。夜の街でホームレスに接するなんて怖くないのでしょうか? 「ホームレスが自分たちで組織してボランティアを守ってくれるから安心です」とも。
中米の最貧国はいかにして変容を遂げたのか?
国連平和大学を訪問したあと、「国家の現状」という民間の調査機関の所長ホルヘ・バルガスさんに話をうかがいました。コスタリカの現状について毎年、年鑑のような報告書を出している機関です。ツアーの一行から次々に質問が出て2時間を超える中、バルガスさんはこう語りました。
「中米で最も貧しい国だったコスタリカの経済レベルが上がった要因が教育です。貧しい人々が団結して早々と中央集権の国を形成し、コーヒー栽培をきっかけに近代化に成功した。選挙システムを早い段階で導入し、リーダーだけでなく国民自身が政治に乗り出す風土をつくったのです。権力を握ろうとしたカトリック教会の司祭を追放し、宗教政党も禁止した。19世紀から政策として教育を優先し、早い段階で義務教育を始め、20世紀の初めには軍人の数より教師の方が多かった。教育の歴史なくして1949年の平和憲法の成立はありえませんでした」。これがコスタリカの歴史のエッセンスです。
「以前は、政治は選挙で選んだ政治家に任せればいいという考えでした。1989年に憲法裁判所の制度を取り入れてから、市民自身が政治に関わるように変わった。憲法を単なるシンボルでなく国民が使えるものにしたのです。憲法裁判所を作る前の違憲訴訟は計200件だったが、その後は40万件に膨らんだ。子どもが違憲訴訟するのも日常で、学校だけでなく生活の中で学ぶという発想です。何かあると『憲法法廷に持ち出せ』とよく言われる。民主主義とは批判し、考え、疑問を抱く能力を持つこと。それは実際に体験することで初めて得られます。参加することが重要です」
「コスタリカは平和と人権に賭けたのです。他の中南米の国で軍人が政権を握っていたとき、そんな国を真似たくなかった。軍事に資金を出すより教育や医療に投資した。今や人口の9%が紛争を逃れてきた外国からの移民です。米国や欧州では移民を排斥しているが、コスタリカではそんな動きはありません。私たちにとって移民は必要だと考えています。現に高齢化社会の労働力になっています」
良い点は他国に学びつつ日本の良さを伸ばそう
バルガスさんのお話を聞いていると、こんな構図が見えてきました。「平和も人生も何事もポジティブに考えて行動するコスタリカ人。一方で、何かあるとすぐに悲観的になり何も行動しない日本人」。日本人はすぐに否定的な考えを探そうとし、結局何もしないことが多いですね。コスタリカ人は良いと思ったらとりあえずやってみようじゃないか、という発想で、しかも行動するのです。
もちろんコスタリカは天国ではありません。バルガスさんのお話の端々に外国の密輸組織の暗躍で悪化した治安など、今のコスタリカの問題が現れます。貧しい農業国であるために道路整備や教員の確保もままならない現実があります。けっしてコスタリカを丸ごと真似る必要はありません。良い点だけを採りいれればいいのです。
国連平和大学で受けたレクチャーから、2018年度の「平和グローバル指数」でコスタリカは40位なのに日本は16位であり、「法治国家指数」ではコスタリカが世界24位なのに日本は9位という高いランクであることが報告されました。え~、と驚くかもしれませんが、日本の治安の高さや、論争はあってもなお憲法9条を保持していることが評価されているのです。9条をなくせば、この位置は一挙に下がるでしょう。
私たちの国はまだ、棄てたものではありません。世界からなお高い評価を受けている現状をポジティブにとらえましょう。そして国民が憲法を活かして政治に参加する、世界に誇れる国にしようではありませんか。