コスタリカ
[5]市民の意識を高める政治参加の仕組み
2015.11.6
コスタリカの国会は、日本と比べると格段に人間的です。日本の国会では議員が半円形になって議長を向いていますが、コスタリカは長方形で全ての議員が向き合っています。いかにも討論しようという配置です。日本では議員が簡単に欠席しますが、コスタリカでは欠席した分は給料から差し引かれます。
議員の席からほんの2メートルのガラスの向こう側が市民の傍聴席です(上の写真の左側)。プラカードでも横断幕でも持ち込み自由です。議場の討論はマイクで傍聴席に聞こえ、ガラスを通して議員の様子を間近に見ます。議員の発言に怒った市民がガラスを強くたたいたため、ガラスにはあちこちにひびが入っています。
よく考えられた仕組みと実行する努力
国会は一院制で定数は57です。うち女性議員は19人。3人に1人は女性です。それでも「残念ながら目標値には達していません」と国会の担当者が言います。「選挙で選出されるポストの40%は女性でなくてはならない」という法律があるのです。女性の社会進出を進めるためクオータ制(割当制)を採用しています。そう、理想を実現するためには、そのための法整備が必要です。日本でも男女平等を実現するには、掛け声だけでなく実現につながる仕組みを作ればいいのです。
完全比例代表制です。小選挙区なんて、ありません。選挙は4年に一度で連続再選はできません。いったん議員になれば、次の4年は立候補できません。「連続8年議員をすれば、権力にしがみつきたくなるものです。その可能性を摘もうと考えました」
大統領の場合、以前は完全に再選禁止でした。独裁者をつくらないという発想からです。これは若手の政治家に対する人権侵害だという違憲訴訟が出た結果、今は2度までは選ばれます。ただし間に8年を置かなければなりません。
選挙権は18歳で手にします。でも若者の政治への関心度が日本と違います。コスタリカでは大統領選挙のたびに子どもの模擬投票が行われ幼稚園児も参加します。小さいころから政治への参加を体験するのです。
高校生が大統領選挙の模擬投票を実施
2002年の大統領選挙のとき、模擬投票の投票所となった首都の高校に行きました。選挙管理委員会の役をするのは高校生でした。生徒の話し合いで責任者、会計や立会人などの担当を決め、国の選挙管理委員会にかけあって特別に投票用紙を発行してもらい、地域の子どもたちに呼びかけて選挙登録をしてもらったと言います。生徒自身が民主主義を学ぶとともに、小さな子どもたちに民主主義を教える良い機会となります。
子どもたちは投票の形だけをまねるのではありません。実際の候補者の公約を知り、どの候補者がいいかを友だちと話し合います。家庭で親と子が政府の政策について意見を闘わすのはごく普通に見られる光景です。
模擬投票だけでなく、子どもたちは実際の選挙運動にも参加します。大統領選挙の当日、投票所に行くと政党ごとにテントが張られ、子どもたちがたくさん座っていました。自分が支持する政党の選挙の手伝いをしていたのです。小学生くらいの女の子が私に近づいて「だれに投票するか、もう決めましたか?まだなら、ぜひ、〇〇党に入れてください」と話しかけてきました。
写真=2002年のコスタリカ大統領選のさいの子どもたちの模擬投票。下の写真で、左側の選挙管理委員会役をしているのは女子高校生です。
日本の政治家がコスタリカを騙った「コスタリカ方式」
以前、日本の選挙で「コスタリカ方式」という言葉がありました。自民党の選挙戦術で、候補者が競わないように小選挙区と比例区から別々に立候補させ、選挙ごとに入れ替えるやり方です。当時、コスタリカで2大政党が選挙ごとに政権を交代していたことから考え付いたということです。でも、こんな言葉はコスタリカにはありません。そもそも小選挙区がないもんね。
だれがコスタリカの名を騙(かた)って、こんな姑息なことを考えたのでしょうか。失言を繰り返すのに反省もなく、今もオリンピックをめぐって批判されながらまったく気にせず偉そうにしている元首相です。コスタリカの国会の広報担当者にこの言葉について聞くと、「ええ、知っています。ちょっと首をひねりますが」と苦笑していました。
写真は子どもの模擬投票の光景。