Articles

コスタリカ

[7]「世界でいちばん幸福な国」というのは本当か?

2015.11.6

昨年、英国のサイトが世界151の国の幸福度を発表しました。「世界でいちばん幸福な国」にあげられたのがコスタリカです。

突撃インタビュー「あなたは幸せですか?」

この1月に僕がコスタリカを訪れたさいエコツアーをしましたが、ガイドは日本人の青年でした。コスタリカ女性と結婚してコスタリカに住んでいます。彼は自分から「この国に住んで幸せだ」と言い出しました。「家族の間で人権について話し合うほどの人権先進国だし、病気になっても心配ないし、障害者があちこちで働く温かい社会だし。子どもの体調がよくないと職場で言えばすぐに早引けさせてくれる」と理由を挙げました。

そう語ったあと彼は突然、ツアーのバスの運転手に「あなたは幸せですか」とたずねました。運転手はすぐに「もちろんだよ。なぜって軍隊がないし、私たちは平和を愛しているからね」と言いました。これがきっかけで、旅のあいだ、いろんな人にこの質問をぶつけました。だれもが「ええ、幸せです」と即座に答えたのには正直、僕も驚きました。

最高裁判所の広報官は「もちろん幸せです。人生の目的を達成しているから。もちろん社会にはなお問題があり収入も高くはないけれど、この国の人生はシンプルでいろんなサービスも受けられるし好きなことをやれる」と話します。

公教育省の女性職員グロリアさんは「ええ、私は幸せ。この国は貧しい中南米にあるのに早くから電気もついたし社会保障が完備している。高い社会保障費を払っているけれど、その制度を担うのがコスタリカ人のアイデンティティだと思う。優れた制度をみんなで保っているという一体感がある。毎日、安定した生活ができることを幸せと呼ぶなら、私はとても幸せです」と断言しました。

単に幸せな社会にいるというだけでなく、幸せな社会を自分たちで創り上げて保っているという意識があります。

現在のコスタリカ政府に批判的な人にも聞きました。大学教授のチャコン氏は「私は幸せです。人の温かさに触れたとき、そう感じる」と語りつつ、「ここ30年ほど、米国流の新自由主義の経済が広まって少数の人だけ利益を受けるようになった。機会の平等が損なわれたら、国民は幸せじゃないと感じるようになるだろう」と指摘しました。

彼が言うように、今のコスタリカが何もかもそろった天国ではありません。コーヒーやバナナなどの農業とエコツアーなどの観光が主体の経済では、大きな収入は得られません。アメリカが近いためグローバル経済に巻き込まれ、これまで築き上げた北欧型の福祉社会が壊れる恐れもあります。

「治安が悪い」という一面的すぎる見方

経済難民を大量に引き受けた結果、その中には仕事にありつけない人や犯罪者もいて、治安が悪くなっています。僕がコスタリカに初めて入った1984年には、警官はこん棒しか持っていませんでした。当時、周囲の他の国では拳銃どころか自動小銃を持っていました。そのくらいコスタリカは治安が良かったのです。しかし、今や警官が銃を持つようになりました。

コスタリカを初めて訪れた日本人の中に、それを見て「コスタリカは治安が悪い」と決めつける人がいます。周囲の他の国に行ってみてください。コスタリカの治安が格段に良いことを知るでしょう。犯罪が増えるのを承知で大量の難民を引き受けているこの国の政策を知れば、頭が下がるでしょう。

コスタリカで麻薬犯罪があると悪口を言う人がいます。中南米の麻薬は主にコカインで南米コロンビアからアメリカに運ばれています。コスタリカは途中の運搬ルートに当たるのでマフィアも暗躍します。それをもって麻薬天国というのは、一部の日本人が覚せい剤をしているのを指して日本人みんなが覚せい剤に汚染されているというようなものです。

コスタリカの沖合を南米からの密輸船が通ります。これを取り締まるアメリカの沿岸警備隊がコスタリカの港に入ります。水や食料の補給のためです。そのためにコスタリカとアメリカが協定を結びました。これをもってコスタリカはアメリカの軍隊に基地を貸しているというウソを流す人がいます。米軍基地なんてコスタリカにありませんよ。

自国が一番と思う国に発展はない

素晴らしい国があるというと、すぐに否定したがるのが日本人の悪い癖です。自分のところが一番だと信じたいのでしょう。日本が一番で途上国はすべてダメな国だと否定する向きもあります。そのような思考に発展性はありません。

経済大国と言いますが、私たちは幸せだと胸を張って言えるでしょうか。差別があり、いじめがあり、貧困層が増え、生きるのに辛いのが今の日本ではありませんか。もっと良い国があれば模範にして、日本をさらに良い国にすればいいではありませんか。

日本人には独創性の才能はあまりないけれど、他の良いものを真似てもっと良いものにする能力があります。スイスの時計を改良して世界一の時計を、ドイツのカメラを真似てさらに優れたカメラを、アメリカの車からそれ以上の自動車を世界に出しました。だったら憲法でコスタリカの良い点を取り入れて、日本を世界一の憲法国家にしようではありませんか。私たちには、できるはずです。日本を「世界一、幸せな国」にすることだって、できるはずです。

Copyright©Chihiro Ito. All Rights Reserved. サイト管理・あおぞら書房