ジャーナリズム
なぜこれを報じない!? 今も未来も原発ゼロのコスタリカ
2015.10.13
コスタリカの山の上には風車がたくさん並んでいます。この国のエネルギーの93%は自然エネルギーです。うち水力発電が76%を、地熱発電が12%を占め、風力発電は4%です。2021年までに自然エネルギー100%にすることを宣言しています。原発は1基もありません。
僕がコスタリカを初めて訪れた1984年、エネルギー政策をききました。このときすでに地熱発電を活発にやっていました。「よくそんな技術がありますね」と言うと、役人は「いえいえ、よその国から技術を導入しています」というのです。「どこの国ですか?」と聞いたら、「日本です」という答えでした。
30年前からコスタリカは日本の地熱発電の技術を導入して自然エネルギーを進めていたのです。自然エネルギーで僕は福島原発事故の年に『地球を活かす 市民が創る自然エネルギー』(シネ・フロント社)と言う本を出版しましたが、日本の地熱発電の技術は断トツの世界一です。日本でいま地熱発電を開発したら、原発20基分の電力がまかなえるのですよ。なのに、政府は原発しかないと国民をだましているのです。実は、日本は自然エネルギーの世界的な資源大国なのです。
原発事故が起きた2011年の12月に、当時のコスタリカの女性大統領が日本に来ました。地熱発電でさらなる協力を求めるためです。日本記者クラブで開かれた彼女の記者会見のさい、僕は質問しました。「将来の発展に備えて原発を作ろうという考えがコスタリカにありますか」
大統領はきっぱりと言いました。「コスタリカの過去に原発の計画はなかったし、未来もありません。私たちは自然エネルギーに投資しているので原発など不要です」
いいじゃないですか。このとき、会場に新聞やテレビ各社の記者が30人くらい来ていました。朝日新聞の若手の記者もいました。僕はすでに現場を離れていたので彼が記事を書くのです。1面か、あるいは社会面に大きく載るだろうと思って楽しみでした。
翌朝の新聞を見て驚きました。1面にも社会面にもありません。経済面に「経済協力を求めてコスタリカ大統領が来日」と小さく出ているだけです。ほんの20行で、原発のことはうしろに5行だけです。おいおい、これってなんだ。今、大切なのは経済協力の話じゃなくて、コスタリカの元首が国策として「原発No!」を明確に示したことじゃないか。なぜ、それを大きく伝えないのか。
他紙を見ました。毎日新聞もやはり経済協力だけを書いていますが、こちらは原発にまったく触れていません。読売にいたっては記事そのものがありません。唖然としました。
彼らはすべて経済部の記者だったのですね。頭は経済というか、カネしかない。世間は原発をめぐってどうするかで論争しているときに、彼らはまるで関心がない。ひどいと思いませんか?
経済部といえば、原発事故のさい、東京電力の記者会見の模様が中継されたことがありました。それを見て僕は唖然としました。経済部の記者たちは東電の幹部のいう事をそのまま聞くだけで何の質問もしないのです。市民の立場から、東電に対して問いかけをすべきときに、ひたすら彼らの言い分だけをメモして記事に書いたのです。
こういう記者を「提灯持ち」と言い、大企業の宣伝をうのみにして書く新聞を「御用新聞」と言います。まさに彼らがそうでした。
同じことを政治部の記者がやっています。政治家、それも政権党を担当する記者のほとんどが政治家のいうことをそのまま流しています。それで自分があたかも日本の政治を動かしているような気になっている。バカたれ。
もちろん経済部、政治部にもいい記者はいますよ。ほんの少数だけど。
新聞やテレビで偉そうに解説している政治部、経済部の記者を見ると、ああ、こいつらが財界や政界の犬となって、国民を奈落の底に導いているのだと怒りを覚えるのです。こいつらはマスコミ会社の社員ではあっても、ジャーナリストではありません。
あ、コスタリカの話をしているのでした。日本にいると腹が立つことが多いですが、コスタリカにいると腹が座ります。人生はこうやって生きて行けばいいのだと自信を持てます。次回もう1回、コスタリカについて書かせてください。では、プーラ・ビーダ!(「純粋な人生」という意味のコスタリカのあいさつ言葉)